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「うだつが上がらない」という言葉がある。
出世ができないとか、なかなかよい境遇になれないという意味で、ひと(どちらか言えば男性?)の社会的地位をさげすむときに使われることが多い。
「うだつ」は「うだち」ともいって、れっきとした建築用語だ。
漢字で「挩」とか「卯立」と書くらしいが、以下のような意味がある。
(A) 小屋梁の上に垂直に立てて棟木を支える部材、いわゆる棟束
(B) よく似た2階建ての日本家屋が隣家と接するように並んでいる場合などで、隣家との境界を強調するように、2階の妻壁を屋根より上に突き出してつくる小屋根や正面の軒下に張り出してつくる袖壁のこと
(A)は屋根を支える構造部材のことだが、(B)は妻壁を上に突き出したり正面に張り出したりして付加した虚栄のための装飾なので意味がまったく違い、戸惑ってしまう。 建築は歴史が古く地域性もあることから、現場用語はどうしても多様化して同音異義語が生じやすいのだろう。 ちなみに、(B)の意味での「うだつ」は、虚飾だけでなく隣家からの延焼を防ぐ防火壁の役割もあったと言われている。
「うだつが上がらない」とは、(A)の意味では「いつも上から押さえつけられていて、よい境遇になれない」であり、(B)の意味では「出世ができず金銭的に余裕がないから、袖壁等がつくれない」ということらしい。 偶然なのか無理やりこじつけたのかは知らないけれど、いずれも社会的地位をさげすむ意味に収束させているのが面白い、
今の住宅に(B)の意味での「うだつ」はほとんど見かけなくなった。
ひとの心から虚栄心がなくなったとは思わないが、戦後、給与所得者の割合が大幅に増えて一億総中流といわれ、そのほとんどが「うだつが上がらない」まま現役を終えるという厳しい現実も多少影響しているのかもしれない。
しかし何より、価値観が多様化したことで敷地ごとに異なるタイプの家が建つようになったことや、大上段に構えた居丈高(いたけだか)な住宅デザインが敬遠され、そんなところにお金を掛けるよりもっと実質的なことにお金を使いたいという建て主の意識の変化が大きく作用しているのではないかと思う。
今や「うだつ」は無くなってしまったけれど、この世に「うだつが上がらない」ひとがいる限り、「うだつが上がらない」という言葉の中で「うだつ」は生き続けるのだろう。。。などと、どうでもよいことを、いつまでたっても「うだつの上がらない」建築家は独(ひと)り言(ご)ちるのである。