Architecture
A-045    私がめざす建築は     s a / r a
simple architecture _ real architecture
初めての設計は、未熟
ガラスブロックの曲壁と打ち放しの梁と丸柱が、泣いている

どの職業でも同じだと思うが、学校を卒業してすぐ社会で通用するひとはまずいない。 会社に入って研修を受けたり、親方の下で見習い修行して知識や技術を習得したとしても、世間はまだ一人前と認めてはくれないだろう。 やはり、それなりの時間をかけて実務の経験を積まなければ、「仕事が出来る」とは言えないのだ。
建築家も同じで、学校で学んだことが役立たないこともないけれど、たとえば施工に関することは学校では教えてくれない(というか、先生も知らないので教えられない)ので工事現場に出て経験を積むしかない。 それを勘案してか、大学で専門教育を受けた後2年以上の実務経験を務めなければ一級建築士になれないことになっている。

とはいうものの、建築家といっても多様で、工事現場の実務をほとんど知らないどころか設計図面すら描かないひともいて、またそれが世界的に名を馳せたひとであったりする。 確かに建築家の仕事は多岐にわたるため、手間暇かかる汚れ仕事は誰かに任せて構想を練ることを専門にするのもありで、すべてをやらないと建築家ではない、などと言うつもりはないけれど、自分がそのようなひとでありたいとは思わない。
多分、建築家としてのあり方は、何にこだわりたいのか、どこまでこだわりたいのかによって大きく違ってくるのだろう。 そのひとの人間性というと大げさだけれど、性分とでもいうのか、結局はそれが建築家としてのあり方に大きくかかわるのだと思う。

「先生、ここんところの型枠はどう組めばいいんでしょうか」
建築の仕事にかかわり始めた頃、工事現場で汗と土で汚れてクシャクシャになった図面を手にした型枠大工の親方から声をかけられた。 年下のわたしに対しいやに丁寧な口調だけれど、親方を見ると「このクソガキ、型枠が組めんような図面描きやがって」とでも言いたげな怖い顔をしている。 先の設計図面すら描かない建築家なら「それを考えるのがキミらの仕事だろ」と平然と言ってその場を去るだろうが、気が弱くて不器用なわたしは天を仰いでしまった。
現場百回。 やはり、現場を経験して仕事を覚えるしかないのだ。