Architecture
A-049    私がめざす建築は     s a / r a
simple architecture _ real architecture
旗竿地に建てる

建築を学び始めた頃、「敷地」という言葉の意味がよくわからなかった。
漠然とではあるが、敷地とは土地の所有や区画を強調するときに使う言葉だと思っていた。 「この一角はわたしの敷地です」などと。 そもそも土地はその所有者によって登記されており、土地ごとに地番をつけて法務局が管理している。 その土地と「敷地」の違いが当時よくわかっていなかったのだ。
「敷地」は建築基準法 施行令第1条第1号に「一の建築物又は用途上不可分の関係にある二以上の建築物のある一団の土地をいう」と定義されている。 法律独特の表現で少しわかりにくいけれど、建物が建っている(あるいは、建てる予定の)土地を「敷地」といい、ひとつの敷地にはひとつの建物しか建てられない。 但し例外として、住宅と車庫のように用途上(生活する上で)分けられない関係にある建物なら二つ以上建てることができる、ということだ。 だから、田んぼや畑などは登記された土地であっても「敷地」とは言わない。

敷地は土地の広さや形状に縛られることなく、建物を建てる際に適宜設定すればよく、その自由度はすこぶる高い。 例えば一筆(いっぴつ/ひとつ)の土地に複数の敷地を設定することができるし、複数の土地を合わせてひとつの敷地とすることも可能だ。 前者は分譲住宅、いわゆる建売住宅の区画割などでよく使われる手法であり、 事前に設定した敷地に合わせて土地を分筆(ぶんぴつ/一つの土地を分割して各々登記すること)し、そこに建物を建てて分譲している。 後者は、敷地を構成する各土地の所有者が異なると権利関係がややこしくなってしまうのが難点だ。 よって当然の結果として、ほとんどの敷地は一筆の土地、という状況に収束することになる。

敷地の設定は自由度が高いと先程述べたけれど、「接道」が必須条件だ。 建築基準法で、道路に2m以上接していない土地に建物を建てることはできない、と決められているため、敷地は道路に2m以上接するように設定しなければならない。 土地の形状は多様で、多角形の土地の頂点部に道路が接しているような場合や袋小路のどん突きの土地、あるいは他人の土地の裏にあり、道路とは畦道のような細い通路でつながっている土地(いわゆる、旗竿地)などは、2mの接道が難しくて敷地にできないこともある。

建築を設計する際、建てる場所の環境に大きな影響を受けるが、敷地の広さや形状も大切な要因だ。 特に日本の都市部の場合、敷地が狭いために建物配置の自由度がほとんどなく、敷地の広さや形状がそのまま建物の大きさや形に反映してしまう。 住宅メーカーの規格化された住宅にいたっては、敷地の形状が狭かったりいびつであったりすると対応できないことがあり、それを特注仕様で建てようとすると工事費が上がってしまうため、仕方なく諦めたひとが駆け込み寺よろしく建築家に頼ることになる。

建築が敷地の上に建てなければならない宿命を負っている以上、敷地が「主」で建築が「従」という主従関係を受け入れざるを得ないのだ。 ならば、われわれ建築家は与えられた敷地を格闘技のリングと見立て、その上で建築という得体の知れない化け物と日々バトルを繰り広げていくしかないのである。