Architecture
A-001    私がめざす建築は     s a / r a
simple architecture _ real architecture
建具、それは移動する壁

「建具(たてぐ)」という言葉は専門用語というほどではないけれど、一般的にはあまり使われていない。 普通、ドアとか襖・障子、引き戸、扉あるいはサッシなどと個別に言うことが多いように思う。 まぁ、単に建築関係者以外はそれらをまとめて総称で呼ぶ機会が少ない、ということだろう。

その建具の起源は、手に入りやすい材料で作った「衝立(ついたて)」や「すだれ」のような簡易なものであったはずだ。 「古事記」にある天照大御神が岩屋に隠れて塞いだ「天の岩戸」ではないけれど、古代であっても、ひとが生活する上で一時的に空間を分割したり、視線や音を遮ったりする必要があったことは想像に難くない。 「壁」は動かせないけれど、生活には簡単に動かしたり取外したりできる壁のようなものが必要なのだ。

動く壁といえば、大広間などを分割して使用する際によく使われる「可動間仕切り」が思い浮かぶけれど、ひとの日々の暮らしにはそんな大層なものでなくてもよい。 空間を分割している壁のほんの一部分だけ開け閉めできれば、双方の空間を行き来するのに事足りる。 それはできればスムーズに開け閉めできた方がよいし、閉めたままで向こう側を窺いたければ、ガラスなど透明な材料を用いればよい。 気密性は音や熱の遮断の必要性の有無から場所によるだろう。 自分の空間に他の誰かが入り込むのを断固拒否したければ鍵をつけ、「動かせない壁」に随時できるようにすれば解決する。 あるいは忍者屋敷よろしく「隠し扉」などと粋なことを考える人もいるかもしれない。 自分の家なのだから、好きなようにすればよい。