Music
音楽    M_001
私の好きな音楽の話
Bruce Springsteen
「アズベリーパークからの挨拶」

なんであれ、デビュー作品が好きだ。 地道に活動していたアーティストが、はれて自身の作品を広く社会に問う機会を得た第一作がデビュー作品である。 初めてつくったものが必ずしもデビュー作品となるわけではない。 デビュー(debut)とはフランス語で「最初」という意味らしいが、陽のあたるところに華々しく登場するイメージがあり、ひとの心を高揚させる。

一般的にアーティストと呼ばれるひとは、自分の表現行為がひとの注目を浴びることに喜びを覚える「目立ちたがり屋」である。 それゆえ、彼らの「デビュー」に対する憧れは強い。 デビューした暁には「あれもしたい、これもしたい」という、ほとんど妄想に近い願望や欲望だけが、彼らに不遇な状況を忍ばせている。 名を成しても、無名時代の作品の方がよかった、などと言われるアーティストは多いが、これはまさしく、その不遇時代の欲求不満が作品に「力」を与えていたと言えるだろう。 だからデビュー作品には、闇をくぐり抜け、明るい世界に飛び出す、あるいは閉塞状況を抜け出す時の「力」がみなぎっている。

しかし、「あれもしたい、これもしたい」とはやる気持ちが空回りしたり、的が絞れず作品が散漫になったりすることも多い。 また知識や技術が未熟なため、思い描いていたような作品にまとまらない場合もある。 あるいは、意に反して体制側の言い分を聞かなければならないこともあるだろう。 だからアーティスト自身にとっても、デビュー作品は不本意な結果に終わることが多い。 世に言う「傑作」や「名盤」は生まれにくいのだ。 それでもぼくは、デビュー作品を愛する。 そこには、それ以後の作品には決して見出すことができない、過去の鬱憤を一気に晴らそうとする、無垢で初々しい「力」がみなぎっているからだ。