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私の好きな音楽の話
ボブ・ディラン自伝 第1巻

2004年の秋、ボブ・ディラン(Bob Dylan 1,941~ 米)が自伝「Chronicles, Volume One」を発表した。 3巻からなる第 1巻という振れ込み(2023年時点で第2・3巻は未刊)で全米で 50万部を売り、翌年にはドイツ語やフランス語に訳され、7月には日本でも翻訳本が出版された。 この自伝には、19歳の彼が厳冬のニューヨークに出てきた当時の様子が驚異的な記憶力で詳しく書かれている。

「求めているのは金でも愛でもない。 わたしは高揚した心を持つ無謀な夢想家であり、定めた目標に向かって歩みはじめていた。 心は獲物をしとめる罠のように強力であり、確実性などという裏付けは必要なかった。」

Dylan といえども、世界中に数多(あまた)いるミュージシャンを目指す若者のひとりに過ぎなかったわけだけれど、その若者がたった9ヶ月後にはレコード業界最大手のコロンビアと契約するのだから、なにより本人が一番驚いたようである。

「ハモンドがわたしをコントロールブースに呼び、コロンビアからわたしのレコードを出そうと言ってきた。 わたしは「はい、そうしたいです」と答えた。 心臓が空まで、ほかの銀河系の星まで飛んでいきそうだった。」

未熟だけれど自分が何をしたいのか確信を持つ若者と、そのかれに「何か」を見出し、それを信じ導いたひとの出会い。
もしそれがなければ、その後のかれの才能の開花はなかったような気がする。