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時空を超えた有本利夫の絵に癒される


ひとの心を揺さぶる絵画は多い。単に感動するだけでなく、描かれた対象に感情移入するあまり忘我の境に入ったり、既視感(デジャビュ)を覚えて懐かしさに心が震えることがある。 また、その技巧や奇抜な表現手法に驚嘆したり、斬新な構図に憧れを抱くこともある。 「芸術」とは、ひとの心を揺さぶることであるのかもしれない。 過去形で書くのが辛いけれど、かつて有本利夫という画家がいた。 1,946年(昭和21年)岡山県津山市に生まれ、24才の時に旅したイタリアでフレスコ画に感銘を受け、一時デザイナーとして会社勤めをしたけれど、30才で辞め、以後画業に専念した。 前途を嘱望されていたが、1,985年(昭和60年)、38才で亡くなってしまった。 彼の絵画は、前述したような、ひとの心を揺さぶるものではない。どちらかと言えばその逆で、ひとの心を落ち着かせ、奥深く沈めてくれる。 まるで時間が止まっているような空間。 あるいは、そもそも時間という概念がない空間、といえる。 日々時間に追われている今のぼくは、彼の絵画に心が癒される。 彼の絵画は静謐ではあるけれど、ずーっと遠くでチェンバロの奏でる調べが風に乗り、ほんのかすかな音だけが耳に届くような、そのような静けさを感じさせてくれる。 頭部や手が極端に小さく描かれた人物は、ふくよかにデフォルメされており、不思議な安定感がある。 岩絵の具で描かれているためか、ざらついた温かみはあるけれど、人物の顔に表情はなく、姿にも動きが感じられない。 しかし、有本利夫の絵には「物語」がある。見る人それぞれが、各人なりに、この絵画からつむぐことができる「物語」である。 展覧会場で、腕を組んだり、あごに手を添えたりして、彼の絵とじっくり対峙しているひとが多いのは、実はみんな、自分の「物語」を心のなかでつむいでいるのかもしれない。 彼の絵画には、ひとにそうさせてしまう不思議な魅力があるのだ。