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建築は常に、それが存在する場所から逃れることはできない。
それゆえ建物の外観や形状、そして配置が必然的に建築の大切な要素になる。
これらはすべて敷地周辺の状況を考慮して決めていかなくてはならない。設計の依頼があると、まず建築家は敷地を見に行く。
最寄の駅から敷地まで歩くことにより街の雰囲気を知り、設計する建物が周囲からどのような見え方をするのか敷地の周りを行ったり来たりしながら把握する。
また敷地の中央に立ち、自分が建物になったつもりで周囲を見渡す。
隣家や向かいの家、そして道路との関係を知るだけでなく、どこかに借景になりそうなところがないかもチェックする。
日の当たり方を検討し、騒音や自然の音(鳥の鳴き声や樹木が風にゆすられる音、水路に水が流れる音)に耳を澄ますし、風がどのように通るのか肌で感じるのだ。
海辺に近いと潮の香り、田畑が多いと土の香り等、匂いも土地によって違う。
また周囲の地形や自然から地盤が良いか否かを推測する。
こうして結構長い時間現地にいると、行き来する近所のひとを見ることにより、どのようなひとが住む街なのかもだいたいわかる。
このように敷地というのは建築家にとって計り知れない情報源なのである。
わたしは設計に行き詰ったときなど、その敷地に行くことがある。
なにか手がかりをつかむ目的だけでなく、自分が初めてここに立ったときの熱い思いをよみがえらせてくれるからだ。
Genius loci(ゲニウス・ロキ)という言葉は「地霊」と訳されたりするが、建築の設計とは、それを五感いっぱいに感じ取り、形にしていく行為でもある。