Architecture
A-025    私がめざす建築は     s a / r a
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コンクリート打ち放しは一発勝負

「コンクリート打ち放し」という仕上げがある。
穏やかに「うちはなし」と言うひともいれば、ツバを飛ばす勢いで「うちっぱなし」と言うひともいる。 いずれにせよ、どこか思いっきりのよさを感じさせる語感がその仕上げの特徴をよく表している。 今や巨匠となった安藤忠雄がデビュー当時からこの仕上げにこだわった建築をつくり続け、その安藤の名がユニークな経歴も相まって大衆化するにつれてこの仕上げも広く一般に知られるようになった。
工場でつくられた固まる前のまだ軟らかい状態のコンクリートをフレッシュ・コンクリート、一般的には「生(なま)コン」というが、「コンクリート打ち放し」は生コンが固まったそのままの状態を仕上げとする。 英語では exposed(露出した) concrete とか fair-faced concrete と言ったりもするが、ありのままということにこの仕上げの意味があるなら naked(裸の) concreteが一番適しているような気がする。

そもそもコンクリートは強固な建築・土木材料として歴史は古く、今から2000年ほど前の古代ローマ時代に火山灰を原料としたコンクリートが隆盛を極めている。 今のコンクリートは石灰石、ケイ石、粘土、酸化鉄原料および石膏などを混ぜてつくるポルトランド・セメントが200年ほど前にイギリスで発明されたことで、定量的に一定の強度を得る方法が確立され、品質管理が向上して普及した経緯がある。
構造体の主要な材料であるコンクリートだが、「打ち放し」仕上げの場合は見せる「素材」としてのコンクリートが求められ、それをどのように見せるかが設計者に問われる。 生コンが固まったそのままの状態を仕上げにすることから、「コンクリート打ち放し」の仕上がり具合は型枠面の状態を如実に反映することになる。 例えば木目が浮き出た型枠ならその木目模様が、リブ状の凹凸があればそのリブ模様が反転してコンクリート面に映される。 一般的には、特に日本ではきめが細かく平滑で美しいコンクリート面が好まれるため、平滑な合板に塗装を施した表面がツルツルの型枠(型枠用塗装合板)が用いられることが多い。

「コンクリート打ち放し」といえば、コンクリート面に整然と並ぶ小さな丸い穴を思い浮かべるひとも多いのではないだろうか。 まるでドット模様がデザインされたように見えるが、実は向かい合う型枠の間隔を保持する金具(セパレーター、略してセパという)を留める部材(プラスチック製で円錐形をしているのでPコーン、略してPコンという)の痕跡であり、セパ穴とかPコン穴と呼ばれるもので、デザインを意図したものではない。
また、型枠合板の継ぎ目に生じてしまう隙間や不陸の跡形も意図的でないデザイン要素といえるかもしれない。 コンクリート面は無機質ゆえ面積が大きいと茫洋(ぼうよう)とした威圧感があるけれど、型枠合板の1.8m×0.9mという人間的なスケールで入る継ぎ目の跡形で大きな面が分節され、コンクリートの威圧感を緩和する効果がある。 そこで設計者は、どのようにコンクリート面を分節するのが適切かを考えて型枠の割り付けをすることになる。

「コンクリート打ち放し」は一発勝負だ。
つくりたいコンクリートの形状に型枠を組んでそこに生コンを流し込み、それが固まってある強度に達して型枠を取り外すまでの数週間は誰もそのコンクリートの仕上がり具合がわからない。 それは昔からちっとも変わらない、神頼み的なスリリングでローテクな施工方法なのだ。 美しい緻密なコンクリート面に仕上げるには、生コンを型枠の隅々まで隙間なく均一に行き渡るように流し込まなければならず、そのために現場の職人総出で生コンに振動を加えたり棒で突付いたりしてコンクリートを締め固めるのだ。 型枠を取り外して美しいコンクリートが現れたときの感動はなんど味わってもいいもので、この喜びを施主や施工者と分ち合えるのも、「コンクリート打ち放し」の魅力である。