Architecture
A-028    私がめざす建築は     s a / r a
simple architecture _ real architecture
車をこよなく愛する人の家

少し古いデータ(矢野経済研究所)で恐縮だが、2016年~2019年に建てられた持家一戸建(注文)住宅うち、「独立した建築家によって基本設計された住宅」(住宅・不動産コンサルティング事業者や建築家マッチングサービス事業者を介したものも含)は約4%だという。 これは25軒に1軒の割合なのだけれど、残念ながら大阪の街を歩いていてもその実感は乏しい。 「基本設計された住宅」というが、建築家が具体的にどのようにどこまでかかわったのか明らかにされていないため、このデータは参考程度にとどめておいた方がよいのかもしれない。 ただ10年前、いやもっと以前と比べるとその割合は確実に増していることは実感できる。 テレビや雑誌等で「風変わりな住宅」とその設計者が紹介されることが増え、インターネットでの情報も相まってより身近になった建築家に直接設計を依頼するひとが増えているのだろう。

なにも建築家だけでなく、専門家や実際に物を作る人に直接仕事を依頼する機会が増えるのは社会的にも良い傾向だと思うのだが、少し独りよがりが過ぎるだろうか。 「売り買い」に例えれば、今はやりの「生産者の顔が見える」というやつで、それは生産者と消費者がダイレクトに向き合う「直売」であり、「直買」でもある。 現代社会では経済システム上、作る人と買う人の間に卸売業・小売業が介して集約的で合理的な市場が展開されているけれど、誰も介さず、作る人と買う人が一対一でリアルに向き合う「直売」は、逃げ隠れできない関係だからこそ生まれる作り手のモチベーションや責任感が、作る物の質に良い影響を与えるような気がする。 一見前近代的で非効率的な面もあるけれど、business(ビジネス)のあり方として本来あるべき姿ではないだろうか。

話は変わるが、いまこれを読んで下さっている方がイメージしやすいと思って先ほどテレビや雑誌等で紹介される「風変わりな住宅」と書いたけれど、本来は「個性的な住宅」と書くべきだ。 施主と建築家が何度も話し合い、試行錯誤して出来上がった住宅に施主の個性が反映されるのは必然だと思う。 100の家族あれば100通りのライフスタイルがあり、100通りのライフスタイルがあれば100通りの「個性的な住宅」にならなければおかしい。 ある家族にとって住みやすい住宅は、他の家族にとっても住みやすいとは限らないのだ。 いや、他の家族にとって住みやすい住宅であるはずがない、と断言しておこう。 マーケティングによって最大公約数を狙うメーカーの企画住宅や建売住宅に自分たちのライフスタイルを合わせる方が、本来は不自然であると思うのだが、如何だろうか。