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近代建築には、「形は機能に従う Form must Follow Function」(註 1)と、「より少ないことは、より豊かなことである Less is More」(註 2)
という二つの言葉を金科玉条のごとく推し進めてきた経緯がある。
特に前者は自然界から得た真理でもある。野生の動植物の形態に無駄を探すのが難しいのは、すべて機能からの必然性があるからだ。
余分な装飾など一切無く、すべては生きていくための必要最小限の形態といえるだろう。
逆にいえば、そういうものしか生き残れなかったのだ。
しかしそれが良いとわかっていても、そのまま人間に当てはめるには少し無理があるのも事実だ。
ここはどうも「適度」という言葉で折り合いをつけるしか無いのかも知れない。
シンプルな生き方に憧れる人は多いけれど、雑多な日常と複雑な人間関係の網が幾重にも覆いかぶさっているような現代社会でそれを手に入れるのは難しい。
しかしそういう中で、敢えてひとつの空間や形が、シンプルな生き方に対しての指標を作りだせるのではないか、と思ったりもする。
川に小石を投げてできる波紋を期待するのではなく、川底深くまで竿を一本突き刺し、小さくではあるけれど、そこを核として流れを変えられないだろうか。
確固たる空間や形態がその一本の竿の働きをすると信じているのだ。
(註 1) ルイス・サリヴァン(建築家 Louis H Sullivan、1,856~1,924 米)の言葉
(註 2) ミース・ファン・デル・ローエ(建築家 Mies van der Rohe、1,886~1,969 独)の言葉