Architecture
A-042    私がめざす建築は     s a / r a
simple architecture _ real architecture
吹抜けに面して2階の廊下を設ける

廊下と言えば、小学校で「走ってはいけません!」と叫んでいた女の先生を思い出す。 当時の校舎は木造で、床は杉か松(あるいは檜だったか)の縁甲板張り。 今で言うフローリングだ。 キズが付かないように昇降口で上履きに履き替えていたけれど、ワックス仕上げなどという洒落たものはなく、水拭き。 授業が終わると掃除当番の生徒が、雑巾を固く絞って級友と競うように床を拭いていた、いや拭かされていた。 廊下は片側に教室が、その反対側には運動場を臨む腰高窓がずら~っと連なっており、子供が風を切って走るのに丁度よい真っすぐで長~い廊下なのだ。 (走ってはいけません!)

廊下にはいろんな形態がある。 先程例に挙げた小学校の廊下など、片側に部屋がある廊下を「片廊下」、両側に部屋があり、それらに挟まれている廊下を「中廊下」、建物と建物をつなぐ廊下を「渡り廊下」という。 「渡り廊下」も学校によくあるタイプで、わたしはそこを通る時になぜか浮遊感がある2階の「渡り廊下」が好きだった。
また、中庭や建物内、あるいは建物外周をぐるっと巡る廊下を「回廊」といい、教会や寺院など宗教建築によくある形式だ。 一時、老人施設で認知症徘徊対策として回廊がもてはやされたが、手が焼ける老人は疲れるまで回廊を歩かせておとけ、と言わんばかりの設計意図に疑問が出て、今ではあまり見かけない。

マンションの場合、廊下らしい廊下がない住戸が多い。 「廊下らしい廊下」というのは「長~い廊下」のことで、そういう廊下がほとんどない。 3LDKぐらいなら、リビングから廊下を経由しないで直接各部屋に入れるようにしていると、無駄がない間取りだと喜ばれたりする。 要は、限られたスペースを無駄にしないための工夫として廊下の短縮があるのだ。
戸建て住宅にしても考えは同じ。 出来るだけ廊下を短くし、その分収納や部屋のスペースを大きくすることを望むひとは多い。 nLDK(いくつかの個室+LDK)という一般的な間取りを前提として、限られたスペースにあれこれ詰め込もうとするとどうしてもそのような発想になり、その結果として、ちまちましたパズルのような窮屈な間取りになってしまうのだ。 これは廊下を「移動のための通路」という機能に限定してしまうことから生じる問題であるような気がする。

では、廊下にどのような機能を併せ持つようにすればよいのだろうか。 例えば、廊下の片側を奥行きの浅い造り付けのクローゼットにすれば、そこはものの出し入れスペースを兼ねることになるし、本棚にするなら、壁の一部に腰を掛けられるような工作をし、そこに座って暫し本を読むことができる。 また、折りたたみのカウンターを壁に細工しておけば、簡単な家事作業スペースになるだろう。 もし、外の風景が臨める窓があるのなら、椅子を置くことでそこは束の間の憩いの場にすることもできる。 2階に廊下をつくる時は、それを吹抜け空間に取り込むと視界が上下左右に開放され、たとえ小さな家であっても劇場のような豊かな空間が得られるはずだ。
このように廊下とは、実は自在変化の多目的スペースなのだ。