Architecture
提言_07    私がめざす建築は     s a / r a
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● リフォーム
     (建て替えないでリフォームにする理由)

むかしと比べ、空き家を含む住宅のリフォームが一般化しました。 2000年以降の市場規模は6~7兆円で推移しており、2022年は約7兆3千億円と言われています。 住宅業界は少子化等による構造的な不況ですが、ことリフォームに限っては違うようです。 建て替えを含む新築がふるわないのに、リフォームがこれほどもてはやされる理由はなんでしょうか?
わたしなりに思いついたことを、いくつかあげてみます。

(A) 仕方ないから、リフォーム

要するに、建て替えたいのだけれど経済力がないからリフォームで我慢するということです。 消極的というか、致し方ない選択です。お気の毒と言うほかありません。
60年代の高度成長期から1990年のバブル経済期まで、途中オイルショックはありましたが、日本経済が順調に右肩上がりの成長をしていたときは、 それに同調してわたしたち国民ひとり一人の経済力も右肩上がりでした。 しかしバブル経済崩壊後の不況を経て低成長時代に入ると、中流意識といわれていた国民の生活観が貧富の差により二極化されていきました。
リストラや会社の倒産で今現在お金に余裕のないひとだけでなく、今は何とか生活できていても将来の生活が保証されていないため、新築に必須の長期ローンが組めなかったり、組む決心がつかないひとがたくさんいます。 これはローンの資金で家を建てることが一般的な日本では、致命的なことです。 そこで、将来の見通しがつくまでとりあえずリフォームで我慢するか、となるのです。

(B) 建て替える必要がないから、リフォーム

現状に少し手を加えることで住宅の性能や使い勝手が改善するなら、なにも大金を使い手間隙かけて建て替える必要がない場合もあります。
たとえば、夏冬エアコンのお世話になっているひとが地球に優しい省エネ生活をしようとしても、むかしの家の断熱性能はあまりよくありません。 いっそう建て替えて高気密・高断熱住宅にすればいいのですが、熱の出入りが激しい窓ガラスを複層(ペア)ガラスに取り替えるだけでも、結構断熱性が向上します。 大きな窓のある部屋ほどその効果はてきめんです。
また、高齢者あるいは身障者のためにバリヤーフリーの住宅に住みたい場合、その仕様で新築するのもいいのですが、段差を解消するための建材や昇降装置、それに手摺やすべり止めといった部材が数多く開発されているので、それを使って今の家をある程度バリヤーフリー化することもできます。
このように今住んでいる建物のままで充分対応(リフォーム)できることがたくさんあるのです。

(C) 誇り高き、リフォーム

それ以前は違ったと信じたいのですが、わたしが物心ついた昭和の高度成長期は「新しもの」に価値がありました。 またそれを手に入れることで消費が拡大し、経済が成長したのです。
新しいものが次々出回るため、まだ充分使えてもそれが相対的に古く感じてしまい、他人目もあり、また多少お金もあるということで、新しいものに買い替えざるを得ない状況になっていたように思います。 住宅でいえば、建て替えせずに増改築(リフォーム)で済ませていたら「ケチ」とか「貧乏くさい」と世間から揶揄されかねない状況(少し大げさですが/笑)、といえるでしょう。
その頃の建築業界は、当然のごとく「スクラップ・アンド・ビルド(古いものを壊して新しくする)」という価値観で社会的使命感に燃えていたのかもしれません。 しかし、そのような勇ましい価値観も 70年代になると公害やオイルショックで反省を迫られることになります。 そのかいあってか、今は良いものを大切に長く使うという考えが一般的に認知されています。 また心情的にも、汗水たらし骨身を削って働いた代償としてのマイホーム(家)は、自分の分身でもあり、そう簡単に壊して建て替えることはできないものです。
このような価値観をもつひとはリフォームに誇りを持っていますし、当然維持管理も行き届き、家を大切に使うのです。

(D) 自分なりにできる、リフォーム

道路沿いに並ぶ家の前を通って毎日通勤・通学していても、その建築を意識しているひとはほとんどいないのではないでしょうか。 この建築の佇(たたず)まいは良いけど樋の納まりがダメだね、などと思いながら街を歩いているのは、建築家や大工さんなど建築に携わるひとだけかもしれません。 一般のひとにとって、建築は目に見えてはいても意識していない存在なのです。
しかし最近、建築、特に住宅建築が注目されています。 本屋さんに行けば住宅関連の雑誌が平積みされている状態で、大変人気があります。 テレビでも、風変わりな家を紹介したり、リフォームする前と後の変化をドラマチックに見せる番組があったりで、視聴率もよいそうです。
建築を表層的にクローズアップしているだけだ、と批判的にとらえるひともいるのですが、わたしはいい傾向だと思っています。 まず興味を持たなければ何も始まりません。 興味を持てばそれについての知識欲が湧き、自分の家のあそこはああしたいとか、こうはできないか、などといろいろ考えて工夫することが楽しくなってきます。
初めは部屋の家具やカーテンなどの模様替えから入り、リフォームはその延長上にあるといえるでしょう。 建て替えとなると技術的に少し手ごわいけれど、リフォームなら日々生活し使い慣れた家を自分なりにあれこれ工夫して実践することができるのです。

(E) 道楽としての、リフォーム

不景気な時期があっても、今の日本の生活水準はやはり高いといえるでしょう。 共働きが一般化したため、ひとり当たりの所得は低くても二人合わせれば"そこそこ"あり、多少の経済的な余裕ができます。 その経済的な余裕は、ひとの心にゆとりをもたらします。
また学校を卒業して社会に出てからも、専門学校や英会話教室、あるいは大学院に社会人入学したりと、それなりの知識欲をもつひとがふえています。
一方、週休2日が一般化した結果、時間の余裕もあるのです。
経済的な余裕、心のゆとり、知識欲、時間の余裕。 これらがそろうと、ひとはなにかと"遊び心"が出てくるものです。 家を建て替えるのは人生の一大事ですが、手ごろなリフォームならこの"遊び心"を充分満たしてくれます。
建築を勉強してその成果をリフォームで発揮するのもいいでしょう。 それがたとえ失敗しても、リフォームなら比較的小さな損失ですむため、気が楽だし、何回もチャレンジすることができます。
「普請道楽」という言葉がありますが、それにならえば「リフォーム道楽」と言えるかもしれません。

建て替えないでリフォームにする理由は、他にもいろいろあるでしょう。
たとえば、法的な規制で建て替えがままならないとか、建て替えはできても現状より狭くなってしまうという場合もあります。 あるいは、街並みの保存といった景観上の制約で内部のリフォームしかできないこともあるでしょう。
いずれにせよ、リフォームは一般の方たちにとって「建築」の敷居が低いので身近に感じるし、素人が建築に手を出してはいけないという呪縛から開放してくれる意味は大きいと思います。
一方われわれ建築家にとってリフォームとは、新築のように自己完結的ではないけれど、継承という意味で"連歌"のように知的好奇心をくすぐってくれる 大変面白い仕事でもあると思うのです。