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そ の 他    O_016
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Winter Book (冬の本)
舟越 桂の彫刻は見る者の心を射る

不意にクスノキの大木に出会うと、得も言われぬ生命力に圧倒されることがある。 神社などで「神木」として崇められたりするのは、たいがいこの手の大木だ。 クスノキは常緑樹の高木で、枝を大きく張るため樹形がすこぶる良い。 また、その枝を覆いつくした無数の小さい葉の間からこぼれ落ちる光がキラキラと美しい。 彫刻家・舟越 桂(1,951~、岩手県)は、ブロンズや石ではなく、このクスノキの原木と対峙することを決め、ひたすら半身像を彫っている。 彼の名を一躍有名にしたのは、1999年に出版された「永遠の仔」(天童荒太・著)の装丁ではないだろうか。 無表情だけれど、真摯に何かを訴えかけようとしているような、そんな人物像が見るひとの目を、そして心を釘付けにする。 クスノキという素材の温かみと、燃えれば消えて無くなってしまう果敢(はか)なさに加え、まるで時間が止まったかのような静謐でクールな人物像が相まって、一気に心の中に飛び込んでくるのだ。 彫刻の対象は現代の市井に生きる無名のひとである。 街を歩いていて、あるいは美術館でこれはと思うひとに声をかけ、モデルになってもらうそうだ。 そういうカジュアルさもあってか、こちらも感情移入がしやすく、像を見つめながら忘我の時を楽しむことができる。 彼の彫刻に、思慮深くて大人しく、どちらかいうと富裕層という、いわば「舟越好み」を見て取ることもできるが、いたって都会的で知性を感じさるのが良い。 製作の最後に大理石の目を入れるそうだけれど、その眼差しは外界の何を見るでもなく、冷めている。 焦点は「永遠」にあるような、また見る者の心の内にもあるような、そんな気がする舟越桂の彫刻である。